No.23「鹿と馬上の女」他

病院に飾られている美術作品といえば、花や風景を描いたものを思い浮かべる人がきっと多いことでしょう。それほどまでに、病院には無難な絵柄が向いているという既成概念が、この社会にはまだまだ根強いのかもしれません。しかし、ここ東葛クリニック病院で、そのような作品をほとんど見掛けないのはなぜでしょうか。それは、ここが現代美術に照準を定めて作品を収集してきたからです。そのような病院は、広く全国を見渡してもざらにはありません。とはいえ、現代美術にはとっつきにくさがあることも事実です。せっかくの貴重な出会いの場を無としないために、私たちはそれとどう付き合ったらいいのでしょうか。
この百瀬 寿の作品は、現代美術のエッセンスが詰まっているという点で、まさに格好の教材といえます。横文字のタイトルからして難解そうですが、Mはマゼンタの略で紫を帯びた紅色、Cはシアンの略で緑がかった青色、それらがGoldつまり金色の上から塗られ、MをCが斜めに横切っているという意味ですから、絵の作られ方がそのまま題名となっているのがわかります。ここには花や風景といった図柄もなければ、際だった身ぶりや感情表現もありません。きっと作者が、目に見える通りに描くのを真実とみなす態度に疑いを持ち、自分の個性をぶちまけることに何の価値も感じなかったからでしょう。そしてそれは、戦争を繰り返し、核の危機を作り出した人間の傲慢さに対する不信とも通じていると思えます。このように現代美術は、押し付けがましい表現を捨て去って、虚心坦懐に色や形が語りかけてくるものを受け止めようという所から出発しました。知覚のすべてを研ぎ澄まして、マゼンタやシアン、ゴールドに美しい調べをつむがせた百瀬も、また……。


作品解説:
美術ジャーナリスト三田 晴夫