No.34「モーツアルトへの賛歌」他

色彩の魔術師 ラウル・デュフィ

今回は“色彩の魔術師”と呼ばれ、“歓喜の画家”とも称されたフランス近代絵画の巨匠、ラウル・デュフィの2点の版画作品をご紹介いたします。
デュフィは北フランスのノルマンディの港町ル・アーブルで、貧しいけれども音楽好きの一家9人の長男として生まれました。家計を助けるために14歳のころから働きはじめ、18歳のときに夜間の美術学校で学び、23歳のときには奨学金を得て、パリの国立美術学校エコール・デ・バザールで学びます。
そこで当時の画家たち、ゴッホやゴーギャン、モネ、ピサロなど印象派の影響を受け、後にマティス、ブラマンク、ピカソなど、フォービスム(野獣派)に関心を向けます。芸術家の常かもしれませんが、経済的な支えのためか、木版画を始めるとやがて木版刷りによる布地デザインを手掛け、いつの間にかテキスタイルデザインも行うようになりました。
芸術家として柔軟で多才だったのか、舞台美術やタペストリーの制作、本の挿絵、ファッション誌「VOGUE」の表紙なども手掛け、国際装飾美術展で金賞、ヴェネツィア・ビエンナーレで国際大賞などを受賞しています。
デュフィの画風は、陽気で透明感のある色彩とリズム感のある線描で、画面から音楽が聞こえてくるようです。東葛クリニック柏に展示されている「モーツアル トへの賛歌」(写真上)は、額に青を基調とした花が描かれており、オルガン奏者だった父への賛歌かもしれません。一方の「ヴァイオリンがある静物」(写真下)の額には赤を基調 に、やはり花が描かれており、これはヴァイオリン奏者だった母への賛歌のように思われます。
デュフィの踊るように流れる軽快な描線と、その形にとらわれない瑞々しい明るい色彩は、絵画の二大要素「線による形」と「面による色彩」が、塗り絵的な絵画の束縛から解放されて、絵画芸術の自由を獲得しているように見えます。
患者さんが、デュフィの明るく自由な感性にあふれた絵画に接し、快い刺激と明日への活力を得ていただければ幸いです。


作品解説:
彫刻家望月 菊麿