No.36「始原の形」

”目で見る音楽”のような作品

今回は、東葛クリニック柏の高層棟待合室ホールに展示されている立体小作品「始原の形」をご紹介します。
作者は彫刻家の北村 亝(ひとし)さん(1924〜2007)です。
北村さんは1924年にインドネシアのジャワ島スマラン市で生まれ、石川県の小松市で育ちました。1949年に東京大学文学部を卒業して53年にフランスへ留学、61年に帰国、66年から共立女子大学で現代美術の理論と実技を教えています。


美術活動は1967年に壱番館画廊で個展、70年から77年にかけて第七画廊で個展、83年からはカネコアートギャラリーで個展を開いています。美術の専門学校を出ずに個展の場を中心に作品を発表し続けた異色の美術作家です。
1970年代はグリッド状に分割された画面で、視覚混合の技法によって色彩のハーモニーを追求、80年代初頭は長方形を分割して作られるユニットをさまざまに展開したレリーフを制作しています。80年代後半になると、主として木と金属を素材として、立体の厳格な制作システムの確立を目指したようです。
90年ごろからは、自ら目指した厳格な制作システムから解放され、より自由な表現へと移行しました。


北村さんは大の音楽好きで(実際に石川県立小松実業高校の校歌を作詞・作曲しています)、十二音階それぞれに色彩を当てはめるなどして、カラフルに色分けされた明快なフォルムの金属枝を組み合わせ、美しいハーモニーを奏でる、言わば”目で見る音楽”のような作品を制作してきました。
東葛クリニック柏に展示されている作品は、北村さんの最晩年の作品で、いろいろなことから心が解き放たれた、自由な精神に満ち溢れた作品のようです。カラフルな色彩と伸びやかな曲線で構成された形は、見る者の心に明るい未来をイメージさせ、生きる力を与えてくれるように思えます。


北村さんの作品は横浜市旭区文化センター、横浜ガーデンシティ三沢公園、よこすか四季の街、山形県鶴岡市コミュニケーションセンターなどのパブリックスペースでも見ることができます。 なお、今回ご紹介した北村さんの作品は、制作美術研究所代表の山本鐘互(しょうご)氏を通して、ご遺族から当院へ寄贈されたものです。
(参考資料/日本美術家辞典)


作品解説:
彫刻家望月 菊麿