No.39「CABALIEREI(騎手)」

病と戦う人のようにも感じられる作品

今回は東葛クリニック病院 別館1階の待合室に展示してあります赤と黒を基調とした版画についてご紹介させていただきます。
制作者はイタリア彫刻界の巨匠、マリノ・マリーニです。画家や彫刻家の版画は“脇の仕事”と考えられ勝ちですが、マリーニの版画は“脇”の域を超えて制作されていたようです。


マリーニは1901年、フィレンツェ近くのピストアで生まれ(1980年ヴィアレッジョで没)、13歳から17歳までエッチングの制作をしていました。1917年にフィレンツェ美術学校の版画・絵画コースに入学、1919年に同校の彫刻コースに移り彫刻制作に取り組みます。1929年にはフィレンツェ美術学校彫刻科の教授となり、ピカソやマイヨール、ブラックなどと親交を結びます。


彼のメインテーマは、人と馬の関係を表現した騎馬像であり、日本の美術館でも見ることができます。その作品は、当初は丸味をおびた形態と直線が融合し、人間と馬とが共に限界まで身体を伸ばしたような形で、ストレートに人と馬の関係(人と自然、人と環境は同等の関係にあるとも受けとることができそうです)を訴えかけているようでした。悲惨な第二次世界大戦を体験したせいでしょうか、その後、彫刻の形が鋭い直線に変化し、人と馬の形も厳しい印象のものになってきたようです。暴れる馬から振り落とされないように必死で耐える人、そこからはまるで困難に遭遇しながらも何とか乗り切ろうとする人間の強い意志のようなものを感じます。


別館に展示してある版画も直線で構成されており、単純化された人と馬が雄叫びを上げているようにも見てとれます。また、何かに打ち勝とうとする強い意志と受け止めることもできそうです。


この作品に触れた方は、果たしてどのように想われるでしょうか。この作品から、病と戦う人の精気をイメージしていただければと思います。
(参考文献/日本美術家事典)


作品解説:
彫刻家望月 菊麿