No.41「空洞の菱」

豊穣の色彩で表現する独自の絵画世界

今回はJR松戸駅近くに、この6月に開設したばかりの「東葛クリニックみらい」に展示されている田渕安一(たぶち やすかず)の作品をご紹介します。


田渕は福岡県小倉に生まれ、母親の影響で幼少期から絵に親しむ環境にありました。戦後の1946年に東京大学美術史科に復学、同時に猪熊弦一郎の研究所で油彩画を学びます。1947年に新制作展に初入選、1951年にパリ大学に留学し、以後パリ郊外に住んで制作を続けます。


当初はキュビズムの影響を受けた具象作品を描いていましたが、1953年にアレシンスキーらと出会い、強烈な色彩表現に触発されて“熱い抽象”へと移行し、ヨーロッパで作品を発表し続けます。


日本国内の展覧会にも度々出品し、新制作展、現代日本美術展、国際具象ビエンナーレ等で受賞を重ねます。1959~1961年にはモノクロームのアンフォルメル作品を発表し、後にアジアの土俗性に刺激されて原色を多用する作品を制作、1977年より「大樹」を連作しました。


その後「チャイニーズ・ドリーム」と題して金箔を用い、華麗でより東洋的なイメージが強い作品を制作します。それはミクロとマクロが照応して動くことにより、宇宙生誕のイメージを生み出すものでした。自然の形を借りながら豊穣の色彩で表現し、独特の絵画世界を作り上げていったのです。


1983年に制作されたこの「空洞の菱(くうどうのひし)」という作品は、上部のシャープな金箔の菱と下部の褐色の不定形な菱が呼応し、その中間域の黄色の自由で多方向に伸びる荒々しい筆致が、私たちに生命の躍動を与えてくれます。
ちなみに、田渕安一は1985年にフランス文化勲章「オフィシエ章」を受章しています。
(参考資料:日本美術家事典)


作品解説:
彫刻家望月 菊麿