院内美術散歩

No.25 「BRESS BREAKTHROUGH 」 No.25 「BRESS BREAKTHROUGH 」

"芸術の秋"たけなわとあって、各地の美術館では多彩な催しが相次いでいますが、日本の野外彫刻のメッカとして名高い山口県宇部市で1年おきに開催される現代日本彫刻展も今年(2007年)が本番。市民の憩いの場として知られる広大な常盤公園の湖を望む芝生のスロープに、いま海外勢も含め、一線級の彫刻家 20人が個性を競い合っています。首都圏からはいささか遠くなりますが、秋晴れの下、豊かな自然の中を散策しながら造形美を味わうのも悪くないでしょう。東葛クリニック病院に真鍮のレリーフがある望月菊磨も、自然との共生を歌い上げたユニークな新作を出品しています。ここで紹介する東葛クリニック病院の別館ロビーにある真鍮のレリーフも、ユニークさでは負けません。1.3メートル四方の正方形の面が9等分されていて、いずれもまばゆい真鍮色の下地に、割れた鏡を思わせる別の真鍮板が張りついています。そして表面にはかきなぐったような、スピーディーな連続線がエッチングされている。人物や風景、草花のような絵柄が何もないので一見、取り付く島もなさそうですが、あきらめずに見入ってください。次第々々に鏡の国のアリスさながら、非現実の世界に引き込まれていく心地がしませんか。このレリーフの随所に、「作らずに作る」とでもいうべき、望月ならではの熟練した手わざが見られます。たとえば、下地の真鍮板から浄土のような光を放たせたり、そこにくっついた真鍮板のちぎれめくれた縁に、表面がひび割れて未知の世界が現れそうな気配を漂わせたりする手わざが。もちろん、エッチングの無秩序な連続線も、真鍮板の鏡面に映り込むこちらの人影や屋内も、「作らずに作る」魔術が生んだイメージにほかなりません。このように造形的作為よりも多く素材の語る言葉を尊重してきた望月が、環境との共生というテーマに向かっているのも思えば当然の展開でしょう。

作品解説:
美術ジャーナリスト三田 晴夫